どうして道路を渡るの?

ようこそ、いらっしゃいませ!

こちらでは、EAのTHE SIMS 3での擬似日常をだらだらと綴っています。

*改めてごあいさつ*

長きにわたり、放置していてすみませんでした。

いつかは戻ってくる、と決めていたので、
移転や閉鎖もせず、けどいつの間にか2年半も経っていました。

やっと戻ってこれましたので、イチから出直します。

「君がいた世界」は、未完のまま終了です。
また、別館は閲覧できない状態にしています。

本当に、長い間留守にして、申し訳ありませんでした。

お気に入りリンクの整理、やっとしました。
リンク切れサイト様もいくつかあって、
2年半と言うのは長かったな・・・と改めて実感しています。

~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~

主役ふたり、やっと揃いました。

Calico Capriccioso
第2話 新しい出会いとか再会とか

最終更新日 2015.04.03

土曜日, 9月 20, 2014

プロローグ Side_K⑦

「や、ケイ。」
「また来たよ・・・。」

風の冷たさが和らぎ、雪も溶け、ブリッジポートの街にも春が訪れようとしていた。
アイは、まもなくここを引き払い、ディーンと一緒に暮らすという。
但し、ディーンがやがて配置替えになる予定なので、結婚式は新しい赴任先に移ってから挙げることになっている。

「そう邪険にすんなって。まだ考えてんの?お前の行く末。」
「おねえちゃんに、ノラネコ生活は却下された。」
「ノラネコ生活?」

「ホームレスになるって言ったら、ダメだって。」
「当たり前だ。バカ。そんなことするくらいなら、俺と一緒に住んだほうが危険度は低いと思うぜ?」
「そうかな?」
「一回寝てみる?兄弟になる前に。」

「結構うまいと思うぜ?」
「思うって・・・うまいって言われたの?」
「あー・・・いや、誰も言ってくんない。」

「それはそうと、ケイ。外行こうぜ。」
「お散歩?」
「お前と散歩してどうするよ。」
「じゃ、なに?」

「ま、いいから黙って俺について来いって。」
「なんかヤだな。その言い回し。」
「いいから。いいから。」

暖かくなってきたことだし、散歩でもしたい、とは思っていた。

「早く来いよ。」

外に行くのはいい。
けれど・・・


「・・・絶対なんか企んでるんだよなぁ・・・。」

それでもケイは、外に出たいという欲求には勝てず、ジェイの後を追った。

「どこ行くの?」
「車、拾おうか。」
「車で行ったら散歩になんないじゃん。」

「だから散歩じゃねえってば。」
「じゃ、グランドピアノがあるとこ?」
「こんな昼間っから行くかよ。」


「なんだ・・・。公園じゃん。」

車を拾った割には、たどり着いたのはごく近くの公園だった。

「お散歩にはいい日和だねー。」
「だから散歩じゃねえってば。」

「ケイ。覚えてるか?」
「ん?」
「ここで、俺は初めてお前を見たんだ。」
「そうだった?」

「思い出の場所ってわけだよ。」
「なんで感動的になるように持ってこうとするの?」
「ここでお前がピアノ弾くトコ、もう一回見たいんだよ。」

「弾くだけなら別にいいけど?」
「よし!弾け!すぐ弾け!」
「なんかヤな感じだけど・・・。」

幸い、ここは人で賑わっている。
だからジェイは、ケイにここでピアノを弾いて貰いさえすればいい。


そうすれば、ケイが音楽で身を立てることが可能かどうか分かる。
そう思っていた。

「ま、弾くだけならね。」
「俺も一緒に弾くからさ。」

「軽ーいノリで、楽しいヤツな。」
「即興でいいの?」
「即興はやめてくれ・・・。誰もが知ってるようなヤツ。」
「じゃ・・・。」

ケイが弾き始めたのは、古いジャズのナンバー。
誰もが耳にした事のある、軽快なメロディー。

「いいな!その調子!」

ピアノとギターの旋律が重なり合う。リズムが溶け合っていく。

「おっと・・・。」

案の定、ケイとジェイの演奏に耳を傾ける人が現れ始めた。

「うまいわねー。」

「チップ弾んどくわ。」
「どうもー。」

ジェイの狙いはこれだった。
ケイの演奏に耳を傾け、チップをくれる人がいれば、ピアノを弾くことがお金になる、ということをケイに知ってもらえる。

「ケイ、見たか!稼げるじゃないか!」
「ん?」

「あれ?ホントだ。お金入ってる。いつの間に?」
「お前・・・気付いてなかったのか?」
「セッションが気持ちよくって、音しか聞いてなかった。」

「お前のピアノで稼いだんだぞ!」
「えー。」

「その場のノリじゃないの?」
「その場のノリでもさ!金払う価値があるってことだろ?」

「ケイ。お前はミュージシャンになれ。」

「ヤダ。」

「なんでだよ!お前なら売れるってのに!」
「ピアノを仕事にしたくないんだって。」
「それが分かんねえ。才能、無駄にする気か?お前。」

「無駄にするかどうかより、ピアノを嫌いになるほうがイヤだ。」
「なんでそうなるんだよ・・・。」
「仕事にすれば、自分の気持ちとは関係なく、弾かなきゃいけない時がくる。気持ちが乗らないのにピアノに触るなんて、ピアノが可哀想だよ。」
「お前、難しいこと言うな・・・。」

「暗くなってきたから、もう帰る。またね。」

ジェイの言うとおり、ピアノを弾くことを仕事にすれば、アイの言っていた、『自分に一生出来る仕事』になるだろうか。


けれどもケイは、どうしてもその気になれない。
『仕事にすれば、楽しくなくなる』というのは言い訳かもしれない。
なにかが心の奥で引っかかっていて、音楽に関わる仕事をすることに、無意識で抵抗を感じていたのだ。


身の振り方が決まらないまま、数日が過ぎた。
ジェイがまとわりついてきてうっとおしいので、ブリッジポートの街を出ようとは思っていたが、その後のことがまだまったく見えなかった。

「ケイ!」
「ん?」

「なぁに?おねえちゃん。」
「あんた、どうするか決めたの?」

「えーっと・・・。」
「・・・やっぱり・・・。まだ決まってないんだ。」
「うん・・・。考えてはいるんだけど・・・。」

顔を合わせれば、アイはこの話ばかりケイに振ってくる。
気持ちは分からないでもないが、ノープランのケイにとって、これは苦痛だった。

「決まってないんなら・・・。」

けれども、いつまでも行く先を決めないケイに業を煮やして、アイはあれこれと画策し、手筈を整えてきたのだ。

「あんた、メドウ・グレンに行きなさい。」
「えっ。」

「どう?」
「メドウ・グレンって・・・。」
「あんたが子供の頃、ばぁちゃんと住んでたあの家よ!」

「ばぁちゃんち・・・住んでいいの!?」
「親戚うちでも困ってたんだって。あの家、住む人がいなくなって、でも売るには惜しいって。」

ケイの顔が一瞬にして輝いた。
真っ暗で、なにも見えなかった未来が、まるで突然夜が明けたかのように光に満ち、目の前が明るくなった。

「誰か身内の人が住んで管理してくれたら有難いって。ちょっと手を入れて内装は工事してあるらしいけどね。ケイ・・・行く?」
「行く!」

「行くよ!すぐ行く!今から行っていい?」
「おバカ。落ち着きなさい。遊びに行くんじゃないのよ。あの家で暮らすんだから、ちゃんと荷物まとめて・・・。」

「ピアノだけあればいい。あとはなーんにもいらないよ。」
「そう言うだろうと思ったわ。」

「あんたが困らないように、最小限の家財道具は頼んであるから。」
「メドウ・グレンか・・・。」
「のんきに構えてるけど、生活費の援助はしないわよ!」
「うん。大丈夫。なんとかする。」

「おねえちゃん・・・。ありがとう。」
「感謝しなさい。」
「一生する!」

「まったく・・・。」

こんな笑顔のケイが見られるなら、もっと早くに思いつけばよかった。
アイは、メドウ・グレンのあの家に住んだことはないが、あの場所は、自分たちの父親が生まれた場所でもある。
いわば、『故郷』というヤツだ。
そこにケイが住んでくれれば、いつでもあの家に行けるのだ。


「来週にはここを引き払うから。間に合ってよかった。」

これでなんの憂いもない。
お互い、それぞれの道を歩いていく。
そういえば・・・子供のケイを、メドウ・グレンのおばあちゃんの家に預ける時も同じように感じたことを、アイは思い出していた。


「メドウ・グレンか・・・。」

何度も夢に見た。
いつも思い出していた。
おばあちゃんと二人、楽しく過ごしたあの家に帰れる。

「この部屋とはお別れか・・・。」

ブリッジポートの街は好きじゃない。
それでもほんのちょっとは感傷的な気分になる。

「ピアノ・・・。」

「一緒に帰れるよ。あの家に。」

「ばぁちゃん、喜んでくれるよね。」

おばあちゃんから譲り受けたピアノに話しかけるように、ケイは優しいメロディーを弾き続けた。


やがて、旅立ちの日。

「おねえちゃん、そろそろ行くよ。」
「うん。」

手荷物はなにもない。
ピアノも、さし当たって必要なものも、すべてメドウ・グレンに送ってある。

「元気でね。」
「うん。」
「風邪なんか引かないようにね。」
「今から夏だよ。おねえちゃん。」
「だって、なんか、あんた心配なんだもん。」

「拾い食いなんかしないようにね!それと仕事見つけて。それと雪が降っても薄着で転げまわらないこと。それと・・・。」
「大丈夫だってば。」

「妹ちゃん。結婚式の招待状を送るからね。来てくれるかい?」
「当たり前じゃん!ちゃんとおめかしして行くからね。」

「お兄さま。おねえちゃんをよろしくね。」
「うむ。毎晩昇天させてみせるさ。」

「ディーン。それはあたしに対する挑戦かしら?」
「はっはっはっ。滅相もない!」

この二人は大丈夫。
アイが手綱を握って、うまくやっていくだろう。

「本当に・・・。」

これでしばしの別れ。
次に会うのは、アイとディーンの結婚式の時だろう。

「ケイ・・・。」

アイも同じ気持ちだった。
数年間、ずっと一緒だった妹が、とうとう自分の手を離れる時がきたのだ。

「ホントに・・・元気で。」

「うん。おねえちゃんも。」

「ケイ・・・あたしのこと、恨んでる?」
「恨んでる?」
「これで罪滅ぼし、出来たかな。」
「変なおねえちゃん。恨んでなんかないよ。」

ケイをおばあちゃんから引き離したのは自分だ。
けれど、初日こそケイは泣いて、帰りたいと言っていたが、翌日にはけろっとして、新しい生活に馴染もうと努力していた。

「じゃ、またね。」
「うん。連絡するね。」

ケイにとっての幸せはなんなのか・・・それを考えた時、アイはメドウ・グレンの家の事を思い出した。
ケイが一人で暮らせるほど成長したのなら、あの家に帰してあげたい・・・だから疎遠になっていた親戚中に連絡をとり、メドウ・グレンの家が無人のまま放置されていることを知って、譲って欲しいと掛け合ったのだ。
返事は、一も二もなかった。
桐野のおばあちゃんと、一番血が近いのは、アイとケイの姉妹だ。
おばあちゃんとあの家で暮らしていたことのあるケイなら、なんの問題もあろう筈がなく、住んで欲しい、と逆に頼まれたのだ。


「ケイ・・・頑張れ。」

何を考えているか分からないところのある子だ。
アイにとってケイの言動は、時に突拍子もなく、理解しがたいものであったけれど、この部屋をキレイに維持してくれていた。
おいしいご飯を作ってくれた。
帰りの遅いアイを、寝ずに待っていてくれた。
だからアイは、安心して仕事に打ち込むことができたし、ディーンと巡り合う事も出来たのだ。


「さ。帰ろう!」

今度はケイの番だ。
自由になって、翼を広げたケイは、どんな幸せを掴むのだろう?


メドウ・グレンでどんな生活が待っているのか・・・。
どんな生活でも構わない。
あの家で暮らすことが出来るなら、それだけでいい。
ケイにはいっさいの不安はなかった。




~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~



これにて、プロローグ ケイちゃん編は終了です(^-^)
でも、次もまだプロローグです。