アールが家にやってきて、家の中に人が一人増えた。
空気が変わった、というのは、アールが男の子だからだろう。
ケイは、男の子と接するのに、あまり慣れていなかった。
「うーん・・・。」
「うーん・・・。」
ケイが今寝ている部屋が子供部屋、というわけだから、
アールも一緒の部屋で過ごさせよう、と考えたおばあちゃんの気持ちは分かるが、
「ちょっとなぁ・・・」
「ねぇ。どうしたもんかな。ぴーぴー。」
「・・・やっぱよくないよなぁ・・・。」
一緒の部屋でいきなり過ごす、というのは、
なんだか居心地が悪い、というか遠慮のようなものを感じる。
「ねぇ、ばぁちゃん。」
「ん?どうした?ケイちゃん。」
「ケイ、ばぁちゃんと一緒に寝ちゃダメ?」
「どうしたの?アールくんと一緒じゃイヤなの?」
「イヤっていうかさー・・・。」
「チビとはいえ、男子と同衾するのはいかがなものか、と思うんだ。」
「ケイちゃんはおませさんだねぇ。兄弟だと思えばいいんじゃない?」
「兄弟ねぇ・・・。」
「今日初めて会ったのに、いきなり兄弟ってのはなぁ。」
仲良くしたい、という気持ちはヤマヤマだったが、アールがどんな子で、
どんなことを考えているのかまだ分からない。
これなら、裏庭で雪ダルマなど作っていずに、おばあちゃんの後ろから
覗き込めばよかった。
「人生って小さな後悔の積み重ねだな・・・。」
「ん?」
「なんでもない。」
「ちょっとムリがあったかな?子供同士のほうがいいと思ったんだけどね。」
「慣れれば平気と思うけど・・・。」
「じゃ、慣れるまではばぁちゃんと一緒に寝ていいよ。」
「ホント?」
「ばぁちゃん。ゴメンね。」
「ばぁちゃんこそ配慮が足りなかったよ。ゴメンね。」
本当はこんなときどうしたらいいのか、ケイには分からない。
だけど、思ったことを口にせずにはいられないケイであった。
「おや。もう寝てる。」
遠い町から車で移動してきて、見も知らぬ家に預けられたアールは、
心も身体も疲れきっていた。
ケイの気持ちなど何も知らず、アールはベッドに入ると、深い眠りについていた。
「これだけぐっすり眠れるんなら心配ないかね。ゆっくりおやすみ。」
「さぁーて。あたしも寝ようかね。ケイちゃんに本でも読んでやろうかな。」
こうして1日目の夜は更けた。
翌朝、まだ夜が明けきらないうちに、ケイは起き出した。
雪が止んでいれば、出かけたかったのだ。
「今日の朝ごはんは~♪」
「チーズステーキサンド~♪」
ケイが朝ごはんを食べ終わる頃、アールが部屋から出てきた。
昨夜、随分早い時間に眠りについたせいか、普段より早く目が覚めた。
ケイと一緒の部屋に寝るのだ、と聞いていたが、昨夜も、今朝もケイは
部屋にいなかった。
それがちょっと気になっていた。
「おはよ-。」
「あ。ケイちゃん、おはよ・・・。」
「早起きだねー。」
「あの・・・ケイちゃん、昨夜さ・・・。」
「ん?な・・・なに?このネコ・・・。」
ネコがアールの足元にまとわりついてきた。
・・・と思った瞬間。
「わぁっ!!」
飛び掛られて驚いた。
アールは今まで、動物からこんな仕打ちを受けたことなどない。
「ひゃあっ!!」
「うっ・・・いててて・・・。」
「うわーーぁあん!!」
「・・・ありゃ・・・。」
「あいつ・・・。」
アールがいきなり大声を上げて泣き出したが、ケイは落ち着いたものだった。
けれど、その泣き声を聞いて、慌てておばあちゃんが駆け寄ってきた。
「どうしたの?なにかあった?」
「大丈夫。にゃんこが飛び掛っただけ。」
「なんだぁ。ビックリした。」
「でも、怪我とかしてるんじゃ・・・。」
「だから大丈夫。ウソ泣きだし。」
驚いたとはいえ、小さな子供じゃあるまいし、ネコに飛び掛られたくらいで、
男の子があんなに派手に泣くとは思えない。
それに、声だって本当の泣き声じゃない、とケイには分かっていた。
「ウソ泣きかぁ。じゃ平気だね。」
「うん。」
だが、アールはますます大声を張り上げた。
「ウソ泣きとはなんだぁーっ!ケイちゃんのバカーーっ!!」
「誰がバカだ。」
「うぉふっ。」
「なっ・・・なにすんだ!いきなり蹴り入れるってどういうことだよ!!」
「やっぱりウソ泣きなんじゃん。」
「ウソ泣きじゃないやっ!」
「男の子があんなにピーピー泣くってありえない。」
「う・・・。」
「ウソ泣きキノコ。」
「だっ・・・誰がキノコだっ!」
「その頭、キノコだしー。」
「これは都会で流行ってんだよ。」
「どこの都会?変なのー。」
「変とはなんだ!子供らしくって可愛い、って評判いいんだよっ!」
「そうかなぁ。キノコにしか見えないけど。」
「キノコ、キノコって・・・お前だってネコみたいじゃないかっ!このノラネコ娘っ!」
「ノラネコ?ノラネコみたい?」
「え?あれ・・・?う・・・嬉しいのか・・・?」
「ケイ、ノラネコ目指してんだ。」
「ノラネコ目指すって・・・。変わってんな・・・お前・・・。」
「そうかな?自由でいいと思うけど。そっちだって、その頭、カッコいいと思ってんなら
怒ることないじゃん。ケイにはキノコにしか見えないけど。」
「・・・やっぱり?」
「流行ってるし、周りの大人が可愛いっていうから、やってんだけど・・・。」
「えー・・・そこに自分の主張はないの?」
「しゅ・・・主張・・・?」
「自分でいいと思ってんなら貫かなきゃダメだよー。イヤならイヤって言わなきゃ。」
「ケイちゃんって・・・難しいコト言うね。」
「んー・・・ウソ泣きは主張でしょ?」
「え・・・?えっとー・・・。泣けば大人は構ってくれるし・・・。俺のこと見てくれるだろ?」
「ちゃんと主張出来るんじゃん。」
「うーん・・・。よく分かんないけど・・・。」
「でも、ばぁちゃんにはそういうの通用しないからやめたほうがいいよ。」
「えっ?」
「ばぁちゃん、子供好きだし、気がついたら側にいるし、
寂しいとか思うヒマないと思うよ。」
寂しい・・・。
そうだ、親と離れて、突然遠い親戚の家で暮らすことになって、
アールは寂しさを感じていたのだ。
たぶん、ケイが普通の子で、こんなにずけずけとモノを言う子ではなかったら、
ホームシックでずっと塞ぎこんでいたかもしれない。
年下のケイが大人っぽくて、ちょっぴり憧れた。
それからアールはすっかりケイに懐いて、いつもケイの姿を探すようになった。
~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~
SS多過ぎやしませんかね。
一言ずつSSを貼る必要はないのだけどもね・・・。
さじ加減が分からなくなってるぞ。
0 件のコメント:
コメントを投稿