「ふぅ~ん。コイツがチャールズ・クレメンタインか・・・。」
圭介は、チャールズを古い写真でしか見たことがない。
橘花もそれは同じだろう。
「どうしてこうも写実的に作れるものか・・・。」
圭介は、本当に橘花にこんな才能があるとは知らなかった。
「エリックのあの話し・・・本当のことなんだな・・・。癪にさわるけど。」
この一体の氷の像が、橘花の運命を決定付けたのだ。
自分の血を分けた娘なのに、橘花がなんだか違う人間のように思える・・・。
そんなことを考えて、圭介は嫌な気分だった。
「あ!橘花のお父さん!しばらくここに住むんですって?」
「君は?」
「ダニエルって言います。お父さん、作家なんでしょ?」
「たいして売れてないけどね。」
「けど、すごいや。物を書いて生活してるなんて。」
「それしか取柄がないからね。」
なぜか圭介に取り入ろうとするダニエル。
「君は何をやってんの?」
「俺、医者なんですよ。エリックとは同僚で・・・。」
「へぇ。そりゃご愁傷様。」
そのエリックは、ひとしきり話をし終えて、暇乞いしようとしていた。
「橘花ちゃん。君は間違いなく、クリスの才能を受け継いでいるよ。」
「え?そう?そうなのかな・・・。」
「でも、ワタシがもしもそうだとして、チャールズの像を作って・・・その後は?なにかあるの?」
「そうだな。君は立派にチャールズの像を作って・・・遺言の一つは果たした。」
「え・・・一つって・・・。」
「チャールズの・・・いや、アーネストの遺言は、これで終わりじゃないんだ。」
「どういうこと?」
「チャールズは、莫大な遺産を、子孫に残しているはずなんだ。」
「遺産って・・・家だけじゃないの?」
「まさか!アーネストの日記にはこう書かれている。『チャールズの墓の前に、クレメンタインの血を引くものが姿を現した時、その人物をクレメンタイン家の名を継ぐ者とし、すべての権利を与えることとする。』・・・ってね。これが果たせなければ終わったことにはならないんだ。」
「え?じゃあ、チャールズのお墓に行けばいいんじゃないの?」
「そうなんだけどね。・・・ないんだよ。」
「ない?」
「探しているんだよ。我々もずっと。」
「チャールズのお墓がないの?」
「そう!」
「エリック!お前はまた、橘花に無理難題を押し付けるんじゃないよ!」
「いや・・・橘花ちゃんがチャールズの像を完成させれば、それがヒントになるんじゃないかって考えたんだけどねぇ。」
「それを探すのはエヴァンス家の仕事じゃないのか?はよ帰れ。お前は昔っから長っ尻だからなぁ。」
「う~ん・・・。まぁ、同じ街にいるんだから、また来ますよ。」
「橘花ちゃん。なんでもいい。ヒントが見つかったら連絡してくれ!」
「うーん・・・ヒントって言われても・・・。」
「いいから帰れって。」
「う・・・圭介さんがいると、やりにくいな・・・。」
「それにしても圭介さん・・・。」
「ん?」
「橘花ちゃん、ホントにいい女になっちゃって・・・。やっぱり私の嫁に・・・。」
「ぶっ殺されたくなかったらさっさと帰れ。」
「う・・・そうします・・・。」
こうしてエリックは、アーネストの遺言を橘花に伝え、クレメンタイン・ハウスを後にした。
「ねえ、パパは・・・知ってたの?アーネストの遺言。」
「まぁね。日記を借りて読んだからね。」
「そう・・・。」
「橘花・・・?」
『・・・どうしてワタシなんだろう・・・。他の人でもいいのに・・・。』
橘花はチャールズやクリスの運命を知り、エリックがその系譜を辿ってカスケード・ショアーズに来たことを聞き、そして今、自分がクレメンタイン家の血を引くものだと知らされて、戸惑っていた。
どうしたらいいのだろう、というのが正直な気持ちだった。
「ね、パパ。ツイン・ブルックに来たの初めて?」
「ん?通ることはあっても、ちゃんと来たことはないなぁ。」
週末が終わり、クレメンタイン・ハウスは少しずつ日常を取り戻していた。
「じゃあさ、街の中、案内してあげるよ。」
「お!そりゃいいな!外でメシでも食うか!」
「ついでに服買って!」
「相変わらずだなぁ、お前・・・。」
チャールズの遺言、アーネストの遺言、そんなものが、橘花にはとてつもなく重く感じられた。
この家の中にいることさえなんだか息苦しい。
だから、久しぶりに会った圭介と、外に出たかったのだ。
「おーっ。なんだ?この店。」
「ここ、委託販売所だよ。作ったものを持ち込んで、売ってもらうの。」
「へーっ。なんかいろいろあるなぁ。」
「いろいろ面白いモノがあるんだよ。たまに掘り出し物もあるし。」
「ふぅん。」
「服もあるんだなぁ。」
「あっ。そうだ。ここよりもっと面白いところがあるんだった!そっち行こ?」
「ん?服はいいのか?」
「スタイリングしてくれるところがあるの!服はそっちで選ぶ。」
「・・・しかし、いい車だな・・・これ。」
「左京の車よ。ぶつけないでね。」
「うーん・・・今ひとつ自信ないなぁ。」
左京に借りた車で、目指す店へ。
「ここだよ。ね、パパもやってもらったら?」
「僕はいいよ。」
「パパの分はワタシが払うから!気分転換になるよ?」
「そうかぁ。じゃ、ちょっとやってもらおうかな。」
「さて。じゃ、いっちょ頼むわ。」
「任せてくださいな~。」
「あれ?おじさんじゃないの?スタイリストさん、変わったの?」
「ああ。私、最近入ったのよ。どんな感じがいいかしら?」
「普通でいいよ。普通で。」
オカマのおじさんはいなくなっていて、代わりにこの人が新しくお店に雇われたらしい。
「こんな感じでどう?」
「ふむ。なかなかいいかも。」
「あなた、男前ね!似合うわ~。」
「そうか?」
この店でスタイリングして貰って、こんなにまともなのは初めてかも。
「橘花、お前は?」
「ワタシは自分で選ぶよ。」
「んふ。これがいいや。」
「それでいいのか?なんか今ひとつ地味というか、華やかさがないというか・・・。」
「そう?」
「そんなんじゃ、モテないぞ?」
「別にモテる必要ないもん。」
「ね、それより、あとどこ行く?」
「おいおい。そんなにいっぺんに見て回らなくっても、僕はしばらくいるからさ。そんなに焦るなよ。」
「そう?じゃ、ご飯食べに行く?」
「そうしよう。」
圭介と二人で少しの間家を離れて、ちょっとは気持ちが落ち着いた橘花だったが、これから自分はどうしたらいいのか・・・そのことがどうしても頭から離れなかった。
エリックが帰ろうとしてる時、ずーっとロッタちゃんが側を離れなくってですね~・・・。
エリックと仲良くなりたかったのか、パパと仲良くなりたかったのか。
でも、エリックに口説かれて、思いっきり拒絶してましたけどね(^-^;)
ようこそ、いらっしゃいませ!
こちらでは、EAのTHE SIMS 3での擬似日常をだらだらと綴っています。
*改めてごあいさつ*
長きにわたり、放置していてすみませんでした。
いつかは戻ってくる、と決めていたので、
移転や閉鎖もせず、けどいつの間にか2年半も経っていました。
やっと戻ってこれましたので、イチから出直します。
「君がいた世界」は、未完のまま終了です。
また、別館は閲覧できない状態にしています。
本当に、長い間留守にして、申し訳ありませんでした。
お気に入りリンクの整理、やっとしました。
リンク切れサイト様もいくつかあって、
2年半と言うのは長かったな・・・と改めて実感しています。
~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~
主役ふたり、やっと揃いました。
Calico Capriccioso
第2話 新しい出会いとか再会とか
最終更新日 2015.04.03
*改めてごあいさつ*
長きにわたり、放置していてすみませんでした。
いつかは戻ってくる、と決めていたので、
移転や閉鎖もせず、けどいつの間にか2年半も経っていました。
やっと戻ってこれましたので、イチから出直します。
「君がいた世界」は、未完のまま終了です。
また、別館は閲覧できない状態にしています。
本当に、長い間留守にして、申し訳ありませんでした。
お気に入りリンクの整理、やっとしました。
リンク切れサイト様もいくつかあって、
2年半と言うのは長かったな・・・と改めて実感しています。
~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~
主役ふたり、やっと揃いました。
Calico Capriccioso
第2話 新しい出会いとか再会とか
最終更新日 2015.04.03
日曜日, 1月 23, 2011
木曜日, 1月 20, 2011
旅立ちの日
「あれ?パパ、出掛けるの?」
「出版社に呼び出された。」
「終わったら電話するからさ、たまには外でメシでも食おうか。」
「ホント?やった!」
「たまには僕の不味い料理から解放されたいだろ?」
「パパの料理は別に不味くないよ。」
「そうか・・・?」
「ね、ついでに服でも買って?」
「なんでだよ。」
「はぁ・・・しょうがないな・・・。服も買ってやるか・・・。」
食事をしながら、橘花と話し、ツイン・ブルックに行くことを許可しようと思っていたのだ。
「しかし・・・なんだか嫁に出すような気分だぞ・・・?ま、エリックにはやらないけどな。」
一人娘が独り立ちするのを頼もしく思いながらも、圭介は一抹の寂しさを感じていた。
おまけに、エリックの筋書き通り、事が運んでいるのもなんだか腹立たしいのだ。
「出版社から呼び出しなら・・・また旅行に行くのかなぁ・・・。」
「だったらその前に、やっぱり許してもらわなくっちゃ。」
橘花も圭介と気持ちは同じ。
いざとなれば家出する覚悟ではいたものの、やはり許しを貰って、ツイン・ブルックに行きたい、と考えていた。
たった一人の肉親である父親の側を離れるのは不安だったが、それよりも、ツイン・ブルックに行けば、何かが待っている・・・そんな気がしてならなかった。
「パパ!お待たせー。」
電話を貰って、待ち合わせたレストランで落ち合った二人。
最初は二人とも黙って食事を口に運んでいたが、やがて圭介が切り出した。
「橘花。ちょっとしばらく外国に行くことになったんだ。」
「やっぱり?長いの?」
「そうだなぁ。今回はちょっと長くなりそうなんだ。」
今までも長い間家を空けることはあったが、橘花はまだ学生だったし、案外一人の時間も楽しんでいるようで、心配したことなどなかった。
けれど、今回ばかりは違う。
「ねぇ、パパ・・・。」
「やっぱりプロが作るワッフルはうまいや。」
「パパってば・・・。」
「・・・気をつけろよ。」
「留守中のこと?分かってるって・・・。」
「そうじゃなくて・・・行くんだろ?ツイン・ブルック。」
しかし、ここできちんと許可しておかなければ、橘花は本当に遠くに行ってしまう・・・。
そんな気がして圭介が出した答えだった。
「許して・・・くれるの?」
「留守中に家出されたらたまらんからな。」
「バレてた?」
「お前の考えてることなんかお見通しさ。」
「えへ。・・・パパ、ありがとう。」
圭介が外国に旅立つ同じ日に、橘花もツイン・ブルックへ行くことに決めた。
それまでの短い数日間、二人で街のあちこちに出掛け、何を話すでもなく一緒に時間を過ごした。
その間に圭介は、約束通りエリックに連絡しておいた。
エリックは迎えに行く、と言って聞かなかったが、橘花がツイン・ブルックの街に着くまでは姿を見せるな、と言い渡しておいた。
万に一つの確率で、橘花の気が変わる、ということもありえたからだ。
しかし、その日はついにやってきた。
「いい天気!幸先いいな~。」
「ん~っ。暑いと厄介だぞ?」
「お前、そんな色気のない格好でいいのか?左京に会いに行くんだろ?」
「ライブの時はめかしこんで行くもん。」
「そうか?」
「・・・ね、パパ。どうして最初、あんなに反対したの?」
「なんとなくだよ。」
「うそ!なんとなく、あんなに反対するわけないじゃん!」
「んー・・・そのうち分かるさっ。」
「そのうち?・・・ってどのくらい?」
「お前次第!・・・っていうか、ホントに気をつけろよ?知らない街なんだし。住むトコどうすんの。」
「向こう行って探す!」
「・・・ま、お前は僕の娘だから、間違ったことはしないって信じてるけどね。」
「なぁに?それっ。」
「橘花・・・元気で。自分の思った通りに生きるんだよ。」
「ふふっ。永遠の別れじゃないのよ?」
「永遠の別れだったら・・・パパ、泣いちゃうよ?」
「パパっ!苦しいってば!」
「ね、旅行から戻ったら、ツイン・ブルックに遊びに来てよ。」
「気が向いたらね。」
「もうっ。そんな言い方っ。」
「とにかく・・・お前は自分の意思に反することはしちゃダメだ。それだけは守ってくれよ?」
「分かった。約束する!」
「いい子だ。」
こうして橘花はツイン・ブルックへと旅立った。
・
・
・
「・・・と、いうわけ。」
「なるほど。反対された理由が、今、よーく分かったわ・・・。」
そして現在。
エリックがお膳立てしたとはいえ、橘花は彫刻家としての才能を開花させていた。
そして、チャールズの像を見事に作り上げたのだ。
やっと繋がりました!
とりあえずホッと一息(^-^;)ゝ
パパの性格と顔、本当に好きだぁー!
書いてて途中で切なくなってきちゃった。なぜか。
「出版社に呼び出された。」
「終わったら電話するからさ、たまには外でメシでも食おうか。」
「ホント?やった!」
「たまには僕の不味い料理から解放されたいだろ?」
「パパの料理は別に不味くないよ。」
「そうか・・・?」
「ね、ついでに服でも買って?」
「なんでだよ。」
「はぁ・・・しょうがないな・・・。服も買ってやるか・・・。」
食事をしながら、橘花と話し、ツイン・ブルックに行くことを許可しようと思っていたのだ。
「しかし・・・なんだか嫁に出すような気分だぞ・・・?ま、エリックにはやらないけどな。」
一人娘が独り立ちするのを頼もしく思いながらも、圭介は一抹の寂しさを感じていた。
おまけに、エリックの筋書き通り、事が運んでいるのもなんだか腹立たしいのだ。
「出版社から呼び出しなら・・・また旅行に行くのかなぁ・・・。」
「だったらその前に、やっぱり許してもらわなくっちゃ。」
橘花も圭介と気持ちは同じ。
いざとなれば家出する覚悟ではいたものの、やはり許しを貰って、ツイン・ブルックに行きたい、と考えていた。
たった一人の肉親である父親の側を離れるのは不安だったが、それよりも、ツイン・ブルックに行けば、何かが待っている・・・そんな気がしてならなかった。
「パパ!お待たせー。」
電話を貰って、待ち合わせたレストランで落ち合った二人。
最初は二人とも黙って食事を口に運んでいたが、やがて圭介が切り出した。
「橘花。ちょっとしばらく外国に行くことになったんだ。」
「やっぱり?長いの?」
「そうだなぁ。今回はちょっと長くなりそうなんだ。」
今までも長い間家を空けることはあったが、橘花はまだ学生だったし、案外一人の時間も楽しんでいるようで、心配したことなどなかった。
けれど、今回ばかりは違う。
「ねぇ、パパ・・・。」
「やっぱりプロが作るワッフルはうまいや。」
「パパってば・・・。」
「・・・気をつけろよ。」
「留守中のこと?分かってるって・・・。」
「そうじゃなくて・・・行くんだろ?ツイン・ブルック。」
しかし、ここできちんと許可しておかなければ、橘花は本当に遠くに行ってしまう・・・。
そんな気がして圭介が出した答えだった。
「許して・・・くれるの?」
「留守中に家出されたらたまらんからな。」
「バレてた?」
「お前の考えてることなんかお見通しさ。」
「えへ。・・・パパ、ありがとう。」
圭介が外国に旅立つ同じ日に、橘花もツイン・ブルックへ行くことに決めた。
それまでの短い数日間、二人で街のあちこちに出掛け、何を話すでもなく一緒に時間を過ごした。
その間に圭介は、約束通りエリックに連絡しておいた。
エリックは迎えに行く、と言って聞かなかったが、橘花がツイン・ブルックの街に着くまでは姿を見せるな、と言い渡しておいた。
万に一つの確率で、橘花の気が変わる、ということもありえたからだ。
しかし、その日はついにやってきた。
「いい天気!幸先いいな~。」
「ん~っ。暑いと厄介だぞ?」
「お前、そんな色気のない格好でいいのか?左京に会いに行くんだろ?」
「ライブの時はめかしこんで行くもん。」
「そうか?」
「・・・ね、パパ。どうして最初、あんなに反対したの?」
「なんとなくだよ。」
「うそ!なんとなく、あんなに反対するわけないじゃん!」
「んー・・・そのうち分かるさっ。」
「そのうち?・・・ってどのくらい?」
「お前次第!・・・っていうか、ホントに気をつけろよ?知らない街なんだし。住むトコどうすんの。」
「向こう行って探す!」
「・・・ま、お前は僕の娘だから、間違ったことはしないって信じてるけどね。」
「なぁに?それっ。」
「橘花・・・元気で。自分の思った通りに生きるんだよ。」
「ふふっ。永遠の別れじゃないのよ?」
「永遠の別れだったら・・・パパ、泣いちゃうよ?」
「パパっ!苦しいってば!」
「ね、旅行から戻ったら、ツイン・ブルックに遊びに来てよ。」
「気が向いたらね。」
「もうっ。そんな言い方っ。」
「とにかく・・・お前は自分の意思に反することはしちゃダメだ。それだけは守ってくれよ?」
「分かった。約束する!」
「いい子だ。」
こうして橘花はツイン・ブルックへと旅立った。
・
・
・
「・・・と、いうわけ。」
「なるほど。反対された理由が、今、よーく分かったわ・・・。」
そして現在。
エリックがお膳立てしたとはいえ、橘花は彫刻家としての才能を開花させていた。
そして、チャールズの像を見事に作り上げたのだ。
やっと繋がりました!
とりあえずホッと一息(^-^;)ゝ
パパの性格と顔、本当に好きだぁー!
書いてて途中で切なくなってきちゃった。なぜか。
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