どうして道路を渡るの?

ようこそ、いらっしゃいませ!

こちらでは、EAのTHE SIMS 3での擬似日常をだらだらと綴っています。

*改めてごあいさつ*

長きにわたり、放置していてすみませんでした。

いつかは戻ってくる、と決めていたので、
移転や閉鎖もせず、けどいつの間にか2年半も経っていました。

やっと戻ってこれましたので、イチから出直します。

「君がいた世界」は、未完のまま終了です。
また、別館は閲覧できない状態にしています。

本当に、長い間留守にして、申し訳ありませんでした。

お気に入りリンクの整理、やっとしました。
リンク切れサイト様もいくつかあって、
2年半と言うのは長かったな・・・と改めて実感しています。

~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~

主役ふたり、やっと揃いました。

Calico Capriccioso
第2話 新しい出会いとか再会とか

最終更新日 2015.04.03

水曜日, 11月 30, 2011

第7話 『当たり前』の生活

「・・・ってか、なにやらせるんだよ・・・。」

「ふふっ。返事してくれたじゃない!」
「・・・いや・・・クマで話しかけられたから、つい・・・。」

起き抜けで、まだ夢の続きを見ているような気がして、つい乗ってしまったが、ハタ、と左京は我に返った。
「左京くんも持ってる?クマちゃん。」
「う・・・も・・・持ってるよ・・・悪いかよ!」

「別に悪くないよ。」
「あれがなきゃ眠れないんだよ!」
「あれ?どこ行くの?」
「便所!」


「ふ・・・ふふっ!よかったぁ~!」


「・・・ったく・・・クマで話しかけるなんて、反則だ・・・。」

部屋の様子を見て、テディベアを抱いて寝ている、と思われたのだろうか。
今頃になって気恥ずかしくなってきた。
「・・・あれ?・・・っていうか、アイツ、何者・・・?」

そういえば、名前は聞いたが、それだけである。

部屋に戻ると、彼女はまだそこにいた。
「あのさー・・・。」
「なにかな?左京くん。」
「・・・クマ、やめろって・・・。」

「お前・・・誰?」
「柑崎橘花。」
「名前はさっき聞いた。お前は誰で、なんでここにいんのかって聞いてんだよ。」
「あー・・・ワタシねー・・・この家で預かってもらうことになったの。
ね。左京くんのクマちゃん、見せて?」

「俺のはコイツだけど・・・預かってって?」
「わ。可愛い!キレイ!!」

「つーか、そいつ、ずいぶん薄汚れてないか?」
「え?そう?」
「ちょっと貸してみな。」

「え・・・どうするの?」
「洗ってやるんだよ。」
「クマって洗っていいの?」

「当たり前だろ。可哀想じゃんか!こんなに埃、かぶっちゃって。」

「お・・・?」

「なんだ。コイツ、水玉のシャツ着てんじゃないか!どんだけ汚れてんだよ!」

「・・・よし、と・・・。」

「ほら。」
「わ!」

「すっごいキレイになっちゃった!ビックリ!!」
「洗えばキレイになるに決まってんだろ。」

「左京くんって優しい!!」
「別に優しくないさ。クマが可哀想だっただけだ。」

「だいたい、何年洗ってないんだよ!」
「洗ったことないもん。」
「げ。」

左京はそのまま、テディベアをベランダに連れて行き、ベンチの上に座らせてやった。
「あとは1日、ここで乾かしときゃいいだろ。」
「ありがと。」

「コイツ、名前は?」
「名前?クマちゃん!」
「それ、名前じゃないだろ?名前、つけてやってないのかよ。」
「えーっと・・・ずーっとクマちゃんって呼んでた・・・。」
「つけてやれよ。」
「うん・・・。左京くんのクマちゃんは?」

「俺のはルークっていうの。」
「じゃ、レイアにする!」

「なんでだよ。やめろって。」
「なんでー?もう決めたもん!レイア!!」
「・・・ってかさー・・・クマだけじゃなくって、お前もなんか薄汚れてないか?匂うぞ?」

「え?そう?三日くらい前に水浴びしたんだけどなー。」
「水・・・って・・・風呂入ってこいよ!」
「えー・・・三日前だから、そんなに臭くないと思うんだけどなぁ。」

「風呂は毎日入るもんだ!いいから入って来いって。着替えは?」
「そんなのないよ!」
「え・・・。」






橘花をバスルームに追いやると、左京は出かける支度をした。
橘花はこの家に預けられた・・・と言うが、両親からそんな話は聞いていなかった。
もっとも、このところ両親は帰宅が遅く、ほとんど顔も見ていなかったわけだが・・・。

そんなことを考えていると、母親がやってきた。
久しぶりにまともに顔を見た気がする。
「母さん、慎太郎叔父さんは?」
「あ、慎ちゃんねー・・・昨夜遅く、発ったのよ。」
「なんだぁ・・・。」
「それより左京!橘花ちゃんに会った?」
「母さん・・・なんなの?アイツ・・・。」


「わー!こんな広いお風呂なんて・・・ずいぶん入ってないなー。」


「俺、あんなヤツ預かるなんて、聞いてないよ。何者?」
「あ・・・ゴメンね・・・。言うチャンスがなくって・・・。以蔵がね、課長さんに頼まれて、預かることになったのよ。」
「孤児?なんでウチなの?」
「うん。詳しい話は、お父さんも知らないらしいの。ただ・・・前に引き取られた家で、なにかあったらしくってね。」


「左京くんがヤな人じゃなくてよかった!可愛いしね。・・・お前もそう思う?アヒルちゃん。」


「同い年なんだし、気が合うかもよ?左京、仲良くしてあげてね。」
「えー・・・。」


「あはは!やっぱそう思う?」


「別に・・・特別仲良くしなくてもいいだろ。」
「どうして?女の子だから照れくさいの?」

「そんなんじゃない。・・・遊び行ってくる。」
「左京・・・。」

今日の今日まで、左京に、女の子を引き取ることになったと、以蔵もヒイナも言えずじまいだった。
悪いことをしたな・・・とヒイナは思ったのだが、左京は過剰に反応するわけでもなく、淡々としたものだった。
それは、すんなり受け入れている、と考えていいのだろうか。
それとも、自分には関わりのないことだ、と割り切っているということだろうか。

「あ!左京くん、ここにいた!」
「お前、風呂入ったのかよ。」
「うん!気持ちよかった~。」

「・・・ま、匂いは消えたかな。」
「へへっ。」
「照れるな。バカ。」

「どっか行くの?」
「釣り。」
「一緒、行く!」

しかし、左京の気持ちは、そのどちらでもなかった。
「ついてくんな。」
「行く!」
「・・・勝手にしろ。」
「街の中、案内してよー。」
「それは今度。」

こうやって、橘花が自分の後についてくることが、若干うっとうしいとは思うのだが、嫌な気持ちではない。
なんというのだろう。
その行動は、至極当然のような気がして、橘花に付きまとわれようがどうしようが、それを特別、意識せずにいられる・・・とでもいったらいいだろうか。

本当は、湖まで行こうかと思ったが、橘花がついてくると言うので、左京は歩いて行ける近所の公園にやってきた。
「わ!」

「ねー。ここ、よく釣れるの?」
「いいや、日によるんだよなぁ。大物はかからないし。」

「ワタシ、釣り、やったことないんだぁ。」
「教えないからな。あっちでなんか食ってろ。」
「お金ないもん。」

「いいや!これで遊んでよっと!」

橘花はブランコを見つけ、それを思い切り漕ぎ始めた。

「きゃー!左京くーん!釣れたー?」
「まだだよ!」

「すごーい!空が高ーい!青ーい!!」

「ねーねー!左京くん!釣れたー?」
「うるさいよ!お前!!」

「魚が逃げちまうじゃないか・・・。」

「おっ!」
「あ!釣れたのー?」

「ちぇ。小物だなぁ・・・。」
「やったねー!」
「うるさいって。」


それから



日が暮れるまで、二人でずっとそこにいた。


特に何か話をするわけでもなく、左京は釣りを続け、橘花は左京が見えるところで、ずっと一人で遊んでいた。

「ん~・・・やっぱ今日は調子悪いや・・・。」

「アイツ・・・何時間ブランコ漕いでんだ?」

もう、どのくらい時間が経ったのだろう。
日が傾き、夕闇が迫ってきた。
「そろそろ帰ろっかなぁ。」

「え。もう帰るの?」

「待って!待って!ワタシも!!」

「早くしろよ。おいてくぞ!」

父親は仕事に出かけたようだったが、もう帰っているかもしれない。
魚も小さいものしかかからないし、今日は早めに切り上げて帰ろう、と思ったのだ。
それに、橘花も側にいる。
なにせ、ここに来て、今日が初日なのだ。早く休ませたほうがいいのではないだろうか、と考えたのだ。

「あー。お腹減ったなぁ。」
「ワタシもー。」

「冷蔵庫、なんか残ってっかなぁ。」

「ん~・・・。」

「こないだ焼いたクッキーしかないか・・・。」
「左京くん、作ったの?」
「うん。」

「ワタシも食べていい?」
「勝手に食えよ。」

「勝手に食べて・・・いいの?」

「当たり前だろ!」
「あ・・・それも当たり前なんだ・・・。」

今朝、この家に来てから、何度その言葉を聞いただろう。

「ねぇ、なんで『当たり前』なの?」
「なんでって・・・変なこと聞くな。お前。」

「あ・・・美味しい。」
「料理、好きなんだ。たまに失敗するけど。」

「・・・。」
「どうしたんだ?食わないの?」

「ねぇ・・・どうして、おじさんもおばさんも左京くんも、『当たり前』って言うの?」
「何が?」
「すんごいふかふかのベッドがある一人部屋とか、毎日お風呂入ることとか、勝手にご飯食べていいとか・・・。」

「あ!あと、学校も行っていいって!」
「ベッドがなかったら寝れないじゃんか。どこで寝る気だよ。それに、俺と同い年なら、学校行くの当たり前だろ。」
「あ。また『当たり前』って言った!」

「お前さー・・・前、引き取られてた家で、どんな生活してたの?」
「うん?掃除したり洗濯したり、馬の世話したり。」
「学校は?」
「行ってないよ。」

「メイドとして雇われてたの?」
「ううん。家の事する代わりに、ご飯食べさせて貰ってたの。」

「なんだよ、それ・・・。何のために引き取られたんだよ!」
「ん~・・・施設にいてね、年頃の女の子が欲しいから、って引き取られたんだー。最初はそうでもなかったんだけどさー・・・げほっ。喉、つっかえた・・・。」

やけに明るく言うが、この身なりを見ると、どんな生活を強いられてきたのか、分かる気がする。
「・・・ゆっくり食えよ。誰も取ったりしないから。」
「ん。」

こういう時、どんな言葉をかければいいのか、左京は知らない。

聞けば答えるが、橘花は自分から話そうとはしない。

つまりそれは、話したくない、ということではないのか?

自分が『当たり前』だと思うような生活を、今まで彼女はしてこなかったのだろう。

それがどんな生活だったのか、左京には想像出来ない。

だけど、今は聞かない。

知る必要がない、と思った。

「・・・もうなくなっちゃった。」
「足んない?」

「ううん!結構お腹一杯になった!ワタシ、お皿洗っとくね!」

「いいよ。皿くらい自分で洗うから。」
「いいの!洗わせて!!」
「ん~・・・じゃ、任した。」
「うん!」


だって

「ふふっ。美味しかったなぁ~。」


誰かと一緒にいて


こんなにも気を遣わずに、自然に感じたことなど、今までなかったのだから。
橘花が側にいることが、『当たり前』のような感じがする。
生い立ちや境遇がどうであれ、こんなにも近く感じるのは・・・同情や憐憫といった言葉では片付けられない。
今はその感覚だけが、不思議で、けれど、とても大切なことのように思えたのだ。